藪内正幸美術館

藪内正幸氏サントリー愛鳥キャンペーンのイラストを描いていた動物画家。動物に対する愛情に満ちた絵柄が気に入っていたのだが、最近、新作を見ないな?と思ったら、2000年に亡くなられていたことを知った。2004年にサントリー白州蒸留所の近くに美術館が開館したので見に行くことにした。

R20を茅野方面に向かい、白州町体育館の脇を左折。この看板が目印(速く走ると見落とすかも)。

道が狭くなってちょっと不安だが、全線舗装。3分走ると森の中の美術館。

奧の木造の建物が美術館。

この施設、作品の展示室が一部屋しかなく、常設展示は無い。年に数回展示品の入れ替えが行われている。行く度に内容が違い、しかも入館料がたったの500円なので、私はリピーターになってしまった(^_^) 藪内竜太さん(藪内氏の息子さん。事務局長)によると、藪内氏の作品は一万点以上あるので、ネタ切れする心配は無いそうだ。

戸田杏子さん(藪内氏の奥さん、2006年夏に死去)、竜太さん等から藪内氏について、いろいろお話を伺った。

藪内氏は大阪出身。小学校の頃から動物園に入り浸り、15歳の時に自作の鳥図鑑を作成し、17歳で市販の鳥図鑑の模写を行っていた。描いた絵を国立科学博物館の今泉先生のところに送っているうちに、先生の目にとまり、高校卒業と同時に上京し、先生の指導の下、骨格標本★を見ながらじっくり動物画の勉強に取り組んだ。藪内氏の絵の素晴らしさは、筋肉や骨格の勉強の基礎ができていることによるところが大きい。

★この骨格標本、当時は科学博物館本館に展示されていたが、現在は新宿分館に保管されているようだ。残念ながら、通常、一般非公開。

美術館の片隅に、藪内氏が小学生の時に描いた動物画、15歳時の自作の鳥図鑑、17歳時の鳥図鑑の模写が展示されていた。小学生の時の絵を見たら、犬の後ろ脚、ダチョウの頭部等、しっかり観察して描かれていた。(才能の無い人の絵なら、ただの「棒」「丸に目玉と嘴」になる。)17歳時の模写絵は、私が1990年頃入手したエジプトの鳥図鑑よりも絵が上手い。博物館の先生にスカウトされるのも納得。

この後、福音館書店で動物図鑑のプロジェクトに携わったが、計画そのものが中断。藪内氏はおおいに落胆されたそうだが、この時描きためた絵は、後に他社の哺乳類図鑑で日の目を見た。また、福音館書店に勤務中、彼は同僚の戸田杏子氏と知り合って結婚した。

その後、絵本、図鑑、本の挿絵、広辞苑のイラスト、サントリー愛鳥キャンペーン等、多様な方面で活動されていたが、咽頭癌で早逝された。享年60歳。

奥さんの戸田杏子氏は、福音館時代、児童書の編集を担当なさっていたが、その後、フリーランスとなり、料理や動物園の評論文などを執筆されていたそうだ。2005年6月に私が美術館を訪れた時に受けた印象は「パワフルな方」。1998年から卵巣癌の闘病生活中だったそうだが、全く気がつかなかった。亡くなられたという連絡が入った時、耳を疑った。ご冥福をお祈りします。

藪内正幸美術館は館内撮影禁止。ということで、展示作品の画像はここには出せない。そこで、藪内氏の作品撮影OKな施設を紹介する。

サントリー白州蒸溜所公式サイト)。

ウイスキー工場と、天然水工場の見学(無料)に用いられるバスに、藪内氏の野鳥イラストが使われている。

以前は、R20際の蒸溜所の看板にも藪内氏のカワセミの絵が描いてあったが、現在は違う看板に差し替えられている。前の看板の方が個人的には気に入っていたのに・・・残念。

とくしま動物園の案内看板
のいち動物公園(高知)の案内看板
千葉市動物公園の案内看板

園内のイラストの全てを藪内氏が手がけたそう。
徳島のがイラスト調で一番味があるそうだ。

根室の民宿・風露荘藪内氏が衝立に書いた鷹の絵が残っているそうだ。短時間にフェルトペンで描かれたものだそうだが、非常に立派なものらしい。遠方だが機会があったら見に行きたい。

美術館の売店について。

藪内氏のイラストが掲載された本が多数売られていたが、
藪内氏追悼文集「ヤブさん」は流通コード無しなので、この美術館でしか入手できない。ある意味、藪内氏の伝記なので、興味のある方なら購入すべき。
藪内氏のハリネズミの絵をモチーフにした瓦煎餅(画像)。

これを作っているのが浅草亀井堂。藪内氏自宅の近所の菓子屋で生前、交流があったそう。もっともハリネズミ煎餅は注文生産で、杉並の店では売っていないとのこと(美術館の方の話)。
杉並区荻窪5-6-14、03-3392-9707

2006年夏以降、故・戸田杏子氏の著書も売店のラインナップに加わった。

「動物園が大好き」(戸田杏子・文、さとうあきら・写真、新潮社)
97年発行の本なので、情報がちょっと古いが、取材のために訪れた動物園の数がハンパじゃない(数百カ所)。もっと動物のお話を戸田さんとしたかった・・・。

裏話。

藪内氏は動物図鑑を作るのが目的で福音館書店に入った。ところが、福音館書店はその後方針転換をし、児童書に力を入れ始め、図鑑の企画はなくなった。戸田杏子さんは児童書の方の担当で、児童書「エルマーと16匹のりゅう」絵本「かもさん おとおり」の、原書になかった地図を藪内氏に描いてもらった。この挿絵については福音館の一社員がサービスでつけました、ということなので、藪内氏の名前は本に入っていない。だから知らない人が見たら、原書に載っている図と勘違いしてしまうだろう(竜太氏から伺った話)。

さっそく自宅に帰ってこの2冊を図書館で入手したら・・・藪内氏の絵だとは言われないとわからない出来。本の中の挿絵とタッチを似せて描いているからだ。しかし、エルマーとりゅう、懐かしいなぁ。

●藪内正幸美術館
山梨県北杜市白州町鳥原 2913-71、0551-35-0088
10〜17時、8月は〜18時。水休、冬期休館、500円
公式サイト